見上げたもんだよ屋根屋の褌とは、明治の文豪、幸田露伴の名文句だ。
これは、二人の大工がひとりの女性を巡って争う中での葛藤を描く不朽の名作
『葛藤二人大工(かっとうににんだいく)』に出てくる。
あれっ、本当は『五重塔』だったっけか。
さて、今日紹介するのは、沖縄に来て半年も経たないのに、現地に溶け込みたくて
間違った「ウチナー」像を展開する大学教員の話である。彼のプライバシーにもかかわるから、
ここでは塔前千代忠(仮名)としておこう。とりあえず彼の告白を聞いてやって欲しい。
オウオウオウオウ、どこ見て歩いてやがんでぇ。
おっと、こいつぁ、ソウマエの旦那
アンタも三世代ぶりに奄美から琉球弧に里帰りしたなんて胸はってんじゃねぇやい。
こちとら国場川で産湯に浸かった生粋のウチナンチューでい。
おめいさんは、どこのウマの骨かしらねぇが、しとづきあいのわりぃところを見ると
しがしのうまれけい?
ほぅ、所沢ねぇ。何かい?新宿からまっつぐ西にいったところかい?
まぁ、那覇とは違って、火事もなければ喧嘩もねぇ、まして花火もありゃしねえだろう。
おれぁ、国場川より北っかわは、琉球とは認めねぇんだ。おめぇさんも、内地じゃ
南の人間だってえばってえられるだろうがよ、ここじゃあおとなしくしとくんなはい。
そんじゃ、今日は消防出初め式だからよ、ここらであばよっとくらぁ。
何、「粋」だぁ?
おめえさん、言葉をしらねぇな。遊びじゃねえんだ、「鯔背」といっとくんな。
おめえさん、鮨屋で「ムラサキ」なんて言うんじゃねえぜ。シタヂといいねえ、シタヂと。
というようなことを矢継ぎ早に話して去っていった。
那覇ではウチナーグチを流暢にしゃべる人はいても、
何代も続く那覇っ子で江戸弁をしゃべる奴はいないと思う。